健康診断

気をつけたい睡眠障害の症状と治療法とは

睡眠のメカニズムとは

私たちが眠るためには、身体内のいくつかの要素が協調して働いています。その中心となるのが「概日リズム(サーカディアンリズム)」という体内時計です。この体内時計は、昼夜のサイクルに合わせて体温、ホルモン分泌、そして睡眠のパターンを調整しています。

概日リズムは、朝に強い光を浴びることでリセットされます。朝の光は、脳内の松果体という部分に影響を与え、メラトニンという睡眠ホルモンの分泌を抑え、目を覚まさせるのに役立ちます。一方、夜になるとメラトニンの分泌が増え、体温が下がり、眠気が訪れます。このメカニズムが正常に働くことで、質の高い睡眠が得られるのです。

一方、オレキシンは覚醒を促進します。したがって、オレキシンの働きに異常が生じると睡眠と覚醒のリズムが崩れます。

不眠症が疑われる症状とは

不眠症の主な症状は、寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚める、または早朝に目が覚めてしまい眠れなくなることです。これらの症状が断続的に続き、日中の疲労感や集中力の低下が見られる場合、単なる「不眠」ではなく「不眠症」として診断される可能性があります。

これに加えて、日中に強い眠気や集中力の欠如、気分の変動が大きくなり、仕事や生活に支障をきたすこともあります。これらの症状が1か月以上続く場合、専門医に相談することをお勧めします。

不眠と不眠症との違い

不眠と不眠症の違いは、その症状の持続期間や影響の程度にあります。不眠は一時的なもので、ストレスや環境の変化などが原因となっていることが多いです。例えば、仕事でのトラブルや新しい環境への適応が必要なときに、不眠症状が出ることがあります。しかし、これらは一時的であり、原因が解消されると自然に改善します。

一方、不眠症は慢性的に続く睡眠障害で、日常生活に支障をきたすレベルです。不眠症は治療を受ける必要がある疾患として、適切なケアが求められます。

睡眠障害の種類

睡眠障害にはさまざまな種類があります。ここでは主な睡眠障害について詳しく説明します。

不眠症

不眠症は最も一般的な睡眠障害の一つで、「寝つきが悪い」、「夜中に何度も目が覚める」、「早朝に目が覚めてしまう」といった症状が特徴です。これにより、日中の活動に支障が出ることが多く、集中力の低下や気分の不安定さ、疲労感が強まります。ストレスや不安、環境的な要因の乱れが主な原因とされています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が停止または著しく減少する状態です。SASの典型的な症状は、いびきがひどいことや、夜間に何度も目が覚めることです。この障害は、心血管疾患や糖尿病との関連性も高く、治療が必要です。

うつ病

うつ病と不眠は密接に関連しています。うつ病の人は、不眠症状を抱えることが多く、逆に不眠がうつ病の発症リスクを高めるとも言われています。

むずむず脚症候群

むずむず脚症候群は、足の中にむずむずする感覚があり、夜間に特に悪化します。この不快感が原因で眠れなくなることが多く、十分な睡眠を得ることが難しくなります。

概日リズム睡眠障害

体内時計が乱れることによって生じる概日リズム睡眠障害は、夜勤や交代勤務が原因でよく見られます。昼夜逆転など不規則な生活が続くことで、睡眠サイクルが崩れてしまうのが特徴です。

その他

慢性的な病気や薬の副作用、更年期障害や甲状腺機能亢進症などのホルモンバランスの乱れも睡眠障害の原因となることがあります。加齢に伴う睡眠時間の短縮はよくみられます。

睡眠障害が健康に与える影響

睡眠が不足すると、身体のさまざまな部分に影響を与えます。ここでは、その具体的な影響について説明します。

心臓病・脳卒中のリスク増加

睡眠不足や質の低い睡眠は、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。これは、睡眠中に体が十分に回復しないため、血圧が上昇し、心臓や血管に負担がかかるためです。

肥満や糖尿病のリスク

睡眠不足は、食欲をコントロールするホルモンのバランスを崩し、過食や肥満のリスクを高めます。また、インスリン抵抗性が高まり、糖尿病のリスクも増加します。

全身的な不調

睡眠不足は食欲の低下、意欲や集中力の低下、倦怠感の増強、頭重感などを招きます。その結果、事故やミスを起こすリスクも高まります。また、うつ病や不安障害などの精神的な不調を引き起こすことがあります。

健康診断と睡眠障害

睡眠障害は、健康診断でも重要なポイントとして注目されています。睡眠が健康全般に大きく影響を与えることが分かっているため、最近の健康診断では睡眠に関する問診が行われることが増えています。特に、睡眠時無呼吸症候群や慢性不眠症が疑われる場合、専門医への受診を勧められることがあります。

健康診断でのチェックポイント

  1. 生活習慣やストレスの問診
    睡眠障害のリスクを早期に把握するために、日常生活のストレスや生活習慣に関する質問がなされます。過度なストレスや夜間の仕事などがある場合、睡眠の質に影響が出ている可能性があるため、これらの情報が重要です。
  2. 肥満や血圧の測定
    睡眠時無呼吸症候群(SAS)は肥満と強く関連しています。そのため、肥満度(BMI)の測定や血圧の測定は重要です。肥満や高血圧がある場合、SASのリスクが高まります。
  3. 問診票による睡眠パターンの評価
    睡眠時間や寝つきに関する質問も含まれ、これにより不眠症や概日リズム睡眠障害のリスクを評価します。夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めるなどの症状があれば、適切な対策が必要です。
  4. 血液検査による糖尿病リスクの確認
    睡眠障害は、糖尿病とも関連しているため、血糖値やHbA1cを調べる血液検査も有用です。糖尿病が疑われる場合、生活習慣の見直しとともに睡眠の質の改善が求められます。また、貧血がむずむず脚症候群の原因となる場合があります。

睡眠障害が見つかった場合の対応

健康診断で睡眠障害が疑われる場合、専門の医師に診てもらうことが勧められます。具体的には、以下のような治療や対策が考えられます。

  • 不眠症の場合:生活リズムの改善やリラクゼーション法を取り入れ、必要であれば薬物療法を行います。短期間の睡眠薬の使用も有効ですが、長期的な改善には生活習慣の見直しが重要です。
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の場合:SASが疑われる場合、睡眠外来や呼吸器科などでの精密検査(睡眠ポリグラフィー)が推奨されます。

不眠症や睡眠障害の治療法

睡眠障害が日常生活に支障をきたしている場合、適切な治療を受けることが重要です。以下に、一般的な治療方法をいくつか紹介します。

生活習慣の改善

まず最も重要なのは、生活習慣の見直しです。以下のような改善点が考えられます。

  • 規則正しい睡眠習慣を確立する:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることで体内時計をリセットし、質の良い睡眠を促します。
  • 寝る前のリラックス習慣を作る:寝る前にリラクゼーションを行い、心と体を落ち着かせることが大切です。例えば、ぬるめのお風呂に入る、軽いストレッチや瞑想をするなどが効果的です。
  • ブルーライトを避ける:スマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、寝つきを悪くすることがあります。寝る前の1時間はこれらのデバイスを避けるようにしましょう。

薬物療法

睡眠障害が深刻な場合、医師の指導の下で薬物療法が行われることがあります。睡眠薬や抗不安薬などが使用されることがありますが、長期的な使用には注意が必要です。薬物治療は一時的な対策として使われ、根本的な治療としては生活習慣の改善が基本となります。

認知行動療法(CBT)

不眠症の治療として、認知行動療法(CBT)が効果的とされています。これは、思考や行動を見直すことで、不眠を引き起こす要因を取り除く治療法です。薬を使用せず、心理的・行動的なアプローチによって睡眠を改善します。

CPAP治療

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療では、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が一般的です。この方法では、寝ている間に鼻や口に装着したマスクを通じて空気を送り込み、気道を広げることで呼吸の中断を防ぎます。

その他

・不眠症を改善するために睡眠衛生指導が行われることがあります。睡眠衛生指導では生活習慣や睡眠環境についてのアドバイスが行われます。
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療では、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が一般的です。この方法では、寝ている間に鼻や口に装着したマスクを通じて空気を送り込み、気道を広げることで呼吸の中断を防ぎます。
・むずむず脚症候群の場合、生活習慣の改善のほか、カフェインやアルコールを控えること、鉄分の補給などの対策があります。

まとめ

睡眠障害は、私たちの心身の健康に大きな影響を与える重大な問題です。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などの症状に悩まされている場合、早めに対処することが重要です。生活習慣の改善やリラクゼーション、適切な医療機関での診断と治療を受けることで、健康な睡眠を取り戻すことができます。

健康診断でも睡眠の重要性が強調される中、定期的な検査と自己管理を怠らず、質の高い睡眠を目指しましょう。

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